虚往実帰 延命山 蓮花寺

このブログは、真言宗の僧侶である私が、伝統的な仏教の教えと護摩祈祷、占星術や霊的ヒーリングといった多角的な智慧を融合させ、現代を生きるあなたの魂の平安と真の豊かさをサポートするために開設しました。 ここでは、毎日更新される占星術のメッセージが、あなたの今日をより良いものへと導くヒントとなります。日々の生活に役立つコラムを通じて、あなたの内なる光を見つけるお手伝いをします。

小説

供養なき街 第20話

午後の太陽が雲の切れ間からわずかに差し込むなか、玲子は海沿いの細道を歩いていた。舗装されきらないアスファルトの上には、誰かの長靴の跡が不規則に残っていた。 彼女の足取りは早くも慎重でもなかった。ただ、自分の意思とはどこか切り離された“何か”に…

供養なき街 第18話

玲子は録音機を手に取り、静かに彼の話に耳を傾けた。 「戻れ……戻れって……」山崎は乾いた唇をなぞるように言った。「最初は波の音に紛れて聞こえてきたんや。気のせいやと思った」 その声が耳の奥に居座るようになったのは、三日前からだという。波止場に出…

供養なき街 第17話

玲子は再び静かに尋ねた。「その声は、どこに戻れと言っているのか、わかりますか?」 しかし女性の瞳は虚ろで、口元がかすかに動くだけだった。「戻れ……戻れ……」 繰り返すだけの言葉に、意味を探ろうとする玲子の問いは届かない。 女性の手が震え、急に身体…

供養なき街 第15話

玲子は静かに座り、手のひらの中で指をそっと回していた。あの村での出来事は、彼女の脳裏に深く刻まれていた。祈祷の炎の揺らめき、智也の呻き声、そしてあの柿の木の根元から掘り出された人骨。理屈では説明できない何かが、確かにあった。 医者として、科…

供養なき街 第14話

第三章 玲子 ―― 境界を歩く者 玲子は、新幹線の窓から遠ざかる山並みを眺めていた。黒々とした森が後方へ流れていくたびに、あの家、智也の家の柿の木の根元が脳裏に浮かんだ。 車窓に映った自分の顔が、知らない女のように見えた。 いつから私は、これを受…

供養なき街 第13話

白く乾いたものが、静かに顔を出した。指の骨。明らかに人間のものだった。 職員が顔をこわばらせ、無言で後ずさった。玲子の心臓が、規則を忘れたように暴れ始める。 さらに掘り進めると、肋骨、顎骨、歪な形の頭蓋が現れた。 歯の並びが不自然だった。唇の…

供養なき街 第12話

智也が静かに横たわる部屋で、玲子は黙ったままメモを取っていた。祈祷が終わり、智也の瞳から“何か”が抜け落ちたのは確かだ。発作も収まった。脈拍も安定している。精神医学的な分類では、説明のつかない“快癒”だった。 だが――玲子の中の医者としての部分は…

供養なき街 第11話

一瞬だけ、炎の揺らぎの中で、彼の背後に――人影が見えたように、玲子には思えた。男のようだった。口が縫われたまま、両手で胸を押さえていた。 真観は錫杖を鳴らした。 「光の中へ還れ。ここはもう、おまえが執着する時代ではない」 その声とともに、炎が揺…

供養なき街 第10話

護摩の炎が大きく唸った。智也の瞳が、カッと見開かれたまま動かない。だがそれは、“見る”という機能を失った目だった。人間の目ではない――そう感じさせる、深く、暗い虚無がそこに宿っていた。 「ノウマク・サンマンダ・バザラダン・センダ・マカロシャダ・…

供養なき街 第9話

部屋の中央に、簡素な護摩壇が組まれる。真観が経を唱え始めると、風もないのに蝋燭の火が揺れた。 「ノウマク・サンマンダ・バザラダン・センダ・マカロシャダ……」 低く抑えた読経の声が、家の壁に染み込んでいく。智也は押し入れの中で呻き、天井を掻きむ…

供養なき街 第8話 

玲子はスマホを耳に当てた。通話の呼び出し音が、不気味な静けさを切り裂いていく。 「……何があった?」真観の声は、普段より低かった。 「――来てほしい。時間がない」玲子の声は震えていた。自分でも気づかぬうちに、理性の蓋が外れ始めている。 応答から一…

供養なき街 第7話

智也の叫びは、押し入れの板を震わせていた。 「来るな……来るな……あいつ、まだ……」 障子の向こうから聞こえる声は、もはや人間のものではなかった。喉の奥で引っかかるような、濁った声。語尾が異常に伸び、まるで誰かと“話している”――そんな風だった。 玲子…

供養なき街 第6話

玲子は自分の筆跡を見つめた。「怨 霊 疑 惑」――まるで悪い冗談のような文字。しかし、手が勝手に動いた。無意識だった。 彼女は長年、医学と脳科学の世界で「原因のある症状」しか扱ってこなかった。目に見えるデータ、反応、臨床数値。人間の不安も、妄想…

供養なき街 第5話

第二章 玲子の調査 血の呪縛 智也の家は、村の最奥にあった。細く曲がりくねった道を抜け、藁葺きの倉の横を通り抜けた先。山に押しつぶされそうな立地だった。 玲子は靴裏についた泥を拭いながら、家の前で深呼吸した。言いようのない重苦しさが胸に張りつ…

供養なき街 第4話 

美優の除霊を見届けた玲子は、胸の奥でざわめく感情を抑えきれなかった。あの場面を目の当たりにしても、理性は「これは偶然の一致かもしれない」と何度も唱えた。だが、心のどこかが震え、否定できない何かが確かに存在することを告げていた。 「こんなこと…

供養なき街 第3話

本堂の外、境内の片隅で、若い母親が泣き崩れていた。腕に抱かれた三歳の女の子、美優は、目を開いたまま、ぼんやりと宙を見つめている。 「急に……しゃべらなくなって、目が合わなくなって……! ご飯も食べなくて……」 怯えきった母の声に、玲子は返す言葉を失…

供養なき街 第2話

玲子は、新幹線を乗り継ぎ、さらに車で山道を数時間。翠嶺県・瀬倉郡──山あいにひっそりと息づく集落にたどり着いた。辺りは霧が立ち込め、昼間だというのに視界が鈍い。 村人の話では、かつては賑わった龍源寺は長年無住の状態が続いていたが、最近になって…

供養なき街 第一話

第一章 見えざる闇(前半) 東京・御茶ノ水の国立医療研究センター。冷えた空気の中、書類の束に囲まれた女性が一人、モニターを睨んでいた。 如月玲子――厚生労働省の難病対策室に所属する調査官。35歳、元精神科医。冷静で理性的。だが、その目の奥には諦め…

連載小説『供養なき街』

連載小説『供養なき街』 ― 現代の闇に祈りを捧ぐ ― ここは、かつて川の氾濫を鎮めるために人柱が立てられた土地。その供養のために祀られた小さな地蔵が、再開発の波で片隅に追いやられている。そして今、街では“見えぬ声”がささやき始めた――。 精神科医・如…

連載小説「おかえり」第30話 完

ユイが紀美野町に来てから初めての冬。 ユイは、リナと共に運営するウェブサイト『紀美野の智慧』の記事を書いていた。キーボードを打つ指先は、もう都会にいた頃のように震えることはない。窓の外では、雪がちらつき始めている。 ユイの体は、この町の氣に…

連載小説「おかえり」第29話

ミサキは、味噌玉を作る手を止め、ユイとリナを交互に見た。 「人間はな、ストレスを感じると、一番最初に影響が出るんが、胃腸なんや。不安な気持ちになると、胃がキリキリしたり、お腹が痛くなったりするやろ?それはな、腸と脳が、お互いに信号を出し合っ…

連載小説「おかえり」第28話

ミサキは、ユイの言葉に頷いた。 「そうや。体はな、食べたもんでできとる。でも、どれだけええもん食べても、吸収できんかったら意味がない。発酵食品は、食べもんを分解して、体に取り入れやすい形にしてくれる。それに、腸と脳は繋がっとるからな。腸が元…

連載小説「おかえり」第27話

リナは、二人の作業をじっと見ていた。都会では、スーパーでパック詰めされた漬物を買うのが当たり前だった。手間も、時間もかからず、何も考えずに口にしていた。しかし、目の前にあるのは、二人の手で、丁寧に、時間をかけて作られている「食」の営みだっ…

連載小説「おかえり」第26話

ミサキは、優しく、しかし丁寧に米を研ぎ始めた。 「そしてな、こうして研ぐとき、米に『おいしくなあれ』って言い聞かせてやるんや。米はな、こうして人間の氣を受けることで、より美味しくなるんやで」 ユイは、味噌を仕込んだ時にミサキが言った「ありが…

連載小説「おかえり」第25話

「ねぇ、お母さん」 ユイは、ミサキが去年の秋に仕込んだ味噌で味噌汁をかき混ぜるミサキに声をかけた。 「当たり前の日常を、キチンとした知識を持って、丁寧にすることって、こんなにも違うんだね。私、すごく感動してる」 それは、まるで魔法のようだった…

連載小説「おかえり」第24話 

ミサキは、ユイの顔を見て、微笑んだ。 「味噌はな、ただの調味料やない。薬膳では、『脾(ひ)』や『胃』の働きを助けるって言われとるんや。夏の暑さで疲れた胃腸を元気にしてくれるし、消化吸収を助けるから、体の巡りが良くなる。それに、心を穏やかにす…

連載小説「おかえり」第23話

秋風が肌寒くなり始めた頃、ユイはミサキに誘われ、初めての味噌作りに挑戦することになった。 「味噌はな、大豆と麹と塩だけでできるんや。でもな、ただ混ぜるだけやない。命を育むつもりでやらんと、美味しいもんはできへん」 ミサキの言葉に、ユイは背筋…

連載小説「おかえり」第20話

ユイは、雨音を聞きながら、目を閉じた。心の中にあったざわつきが、少しずつ静まっていくのを感じた。もう、いらない感情を抱え込むのはやめよう。受け取るべきは、この土地の温かい氣と、母や周りの人たちの優しい気持ちだけだ。そして、もし何か向けてく…

連載小説「おかえり」第21話

リナは、ユイがパソコンを畑に持ち込んで仕事をしていると聞いて、目を輝かせた。 「すごい!私たちも、都会から来た人たちと一緒に、この町の魅力を発信したくて。もしよかったら、一緒に何かやりませんか?」 ユイは、予期せぬ提案に戸惑いながらも、リナ…

連載小説「おかえり」第19話

ある晩、従姉がユイに言った。 「あんた、帰ってきてほんまに良かったな。都会でしんどそうやったって、おばちゃん心配しとったんやで」 その言葉に、ユイは驚いた。ミサキは、都会でのユイの苦しみを、言葉にしなくても感じ取っていたのだ。 そして、お盆の…