ミサキは、味噌玉を作る手を止め、ユイとリナを交互に見た。
「人間はな、ストレスを感じると、一番最初に影響が出るんが、胃腸なんや。不安な気持ちになると、胃がキリキリしたり、お腹が痛くなったりするやろ?それはな、腸と脳が、お互いに信号を出し合っとるからなんや。脳が『しんどい』と感じたら、腸も『しんどい』と感じる。逆もまた然りや」
ユイは、都会でストレスが溜まると、食欲がなくなったり、胃がもたれたりしていたことを思い出した。
「都会では、頭で考えることばっかりで、体と向き合う時間がなかった。だから、脳がしんどいのに、腸も無理して働き続けとったんや。そうすると、体はどんどん疲れて、氣も塞いでしまう」
ミサキは、ユイが来たばかりの頃の、むくんだ顔と覇気のない目を思い出した。
「ユイがここに来て、土に触れて、体を動かして、温かいもん食べて、よう眠るようになったら、腸が元気になった。そしたら、脳も『大丈夫や』って安心する。そうやって、腸が元気になると、心も元気になるんや」
ミサキは、味噌玉を丁寧にラップで包みながら続けた。
「だからな、食は命の源や。何を食べるか、どう食べるか。それが、あんたらの心と体を作っとるんやで」
ユイとリナは、その言葉に深く頷いた。ミサキの智慧は、単なる料理の知識ではなく、人間が自然とどう向き合い、どう生きるべきかという、根本的な哲学だったのだ。
リナは、この町に移住してきてから、都会では感じることのなかった充実感を日々感じていた。それは、ユイとミサキの暮らしに触れ、この町の「智慧」を学ぶことで、より確かなものになっていた。
「私、ユイさんと一緒に、この町の魅力をもっと伝えたい」
リナは、ユイにウェブサイトの今後の展望を熱く語った。
「私たちの世代が、この町の智慧をウェブで発信することで、都会で疲れている人たちの心に、きっと届くと思う」
ユイも、その思いに深く共感した。
都会を離れて初めて気づいた、当たり前の日常に隠された豊かさ。それを、かつての自分のように苦しんでいる人たちに伝えたい。それは、ユイがこの町で見つけた、新しい「生きる」目標だった。